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中小企業に人的資本経営は必要なのか
中小企業の経営者にとって、人的資本経営は、大企業だけが取り組むべき戦略に見えてしまいます。
しかし、この考え方は、中小企業の方がより大きな利益をもたらす可能性があります。
社員ひとりひとりのスキルや知識、経験を最大限に活かし、企業全体の競争力やイノベーション力を高めることが、これからの企業の継続的な成長と高いレベルでの安定のキー(鍵)となります。
この記事では、中小企業が人的資本経営を導入することで得られる具体的なメリットや、成功するための方法について詳しく紹介していきます。
人的資本経営の目的
人的資本とは、社員ひとりひとりのスキルや知識、経験などのことを指します。
この資本を最大限に活用し、企業の成長と継続的な発展を促すことが、人的資本経営の目的となります。
企業が市場で競争力を持つためには、社員が持っているスキルや知識を最大限に引き出すことが必要です。
例えば、特定の技術に優れた社員がいることで、他社にはない独自の製品やサービスを提供できるようになります。
また、社員が持つ多様な視点やアイディアは、新しい商品やサービスの開発に役立ちます。
人的資本経営では、社員が自由に意見を出し合い、創造的な解決策を見つけやすい環境を作ることが重視されます。
社員が自分の仕事に満足し、やりがいを感じることは、企業全体の成果に直結するでしょう。
ほかにも社員のキャリアパスを明確にしたり、スキルアップの機会を提供したりすることで、社員のモチベーション向上に期待できます。
さらに、社員のスキルや知識を把握することで、どのプロジェクトに誰を配置すれば最も効果的かを判断することができます。
これにより、業務の効率化とプロジェクトの成功率を高めることが可能になります。
現代の企業は、単に利益を追求するだけでなく、社会に対する責任を果たす必要もあります。
人的資本経営として、社員の成長を支援し、働きやすい環境を提供することで、社会全体の発展にも寄与していきます。
人的資本経営では、社員のスキルや知識を最大限に活かし、企業の競争力を高めイノベーションを促進させていく中で、社員の満足度と社会的責任を両立させていきます。
これにより、企業は継続的な成長と高いレベルでの安定を実現することができるでしょう。
中小企業に人的資本経営は必要なのか
大企業だけでなく中小企業においても、人的資本経営は重要な戦略です。
とは言え、この「戦略」が必要な場合と、必要でない場合があるのも事実です。
どのような場合に必要なのか、また、必要ではないのかを見ていきます。
【1.必要な企業(効果の期待できる)の特徴】
中小企業において人的資本経営が必要な企業には、いくつかの特徴があります。
まず、成長志向が強い企業、競争の激しい業界にとっては欠かせないでしょう。
これらの企業は、市場での競争力を高めるために、社員ひとりひとりのスキルや知識を最大限に活用することに力を入れています。
例えば、特定の技術に優れた社員がいることで、他社にはない独自の製品やサービスを提供できるようになります。
成長を目指す企業にとって、人的資本経営は不可欠な要素となります。
また、イノベーションを重視、必要とする企業も、人的資本経営が重要です。
新しい商品やサービスを生み出すためには、社員が持つ多様な視点やアイディアが必要です。
人的資本経営を通じて、社員が自由に意見を出し合い、創造的な解決策を見つけやすい環境を整えることが求められます。
こうした環境を作り出すことで、企業は市場において競争力を持ち続けることができます。
この他にも、従業員エンゲージメント、従業員満足度の向上を目指す企業も、人的資本経営を導入すると良い結果が期待できます。
従業員のモチベーションが高くなると、それが企業全体の成果に直結します。
キャリアパスの明確化やスキルアップの機会提供を通じて、社員のやる気を引き出すことができます。
社員が自分の仕事に満足し、やりがいを感じることができる環境を提供することで、企業は持続的な成長を実現しやすくなります。
【2.必要でない企業(効果が見えにくい)の特徴】
中小企業において人的資本経営が必ずしも必要でない企業も存在します。
例えば、短期的な利益追求を重視する企業です。
このような企業は、人的資本経営がコストや時間を要するため、すぐに成果を出すための他の戦略を選ぶことが多くなります。
また、規模が小さく、少数精鋭で業務を効率的に行っている企業も、すでに社員ひとりひとりのスキルや知識が最大限に活用されているため、人的資本経営を新たに導入する必要性が低いと言えるでしょう。
また、成熟した業界で安定している企業も、人的資本経営を必要としない場合があります。
こうした企業は、既存のビジネスモデルや方法論で十分な成果を上げており、現状維持で満足できる成果が出ている場合が多いためです。
そのため大きな変化を求めず、人的資本経営を導入する必要性と意義が薄いと感じることがあります。
このように、中小企業が人的資本経営を導入するかどうかを判断することが重要です。
企業の目指す方向性や現在の状況に応じて、最適な経営戦略を選択することが、継続的な成長と高いレベルでの安定のキー(鍵)となります。
中小企業が行うべき人的資本経営の基本
中小企業においても、競争が激化する現代のビジネス環境では、社員ひとりひとりのスキルや知識を最大限に活用することが求められます。
中小企業が行うべき人的資本経営の基本について、3つの視点から見ていきます。
【1.必要な人材を採用・育成する。】
中小企業が成功するためには、企業のニーズに合った人材を確保することが重要です。
まずは、採用戦略を明確にすることが大切です。
企業のミッションやビジョンに共感し、長期的に貢献してくれる人材を見極めるための基準を設定します。
また、求人情報を魅力的に発信することも大切です。
求人広告には、働きやすい環境やキャリアパスの明確さを強調し、求職者に「ここで働きたい」と感じてもらえるように工夫しましょう。
採用プロセスでは面接だけでなく、適性検査や実技テストなどを活用して候補者の能力を多角的に評価します。
また、現場の担当者と候補者が直接話し合う機会を設け、実際の業務環境や企業文化に適応できるかどうかを確認することも効果的でしょう。
コミュニケーションの機会を増やすことが成功に繋がりやすくなります。
他にも、既存の社員からの推薦を活用することで、信頼性の高い人材を採用することも期待できます。
採用後は、新入社員の早期定着をサポートするためのプログラムを整備します。
具体的には、社内研修やメンター制度を導入し、業務の理解を深めるとともに、人間関係を築く機会を提供しましょう。
これにより、新入社員が既存のチームに違和感なく合流することが可能になり、早期の離職を防ぐことができます。
メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf
【2.仕組みを構築する。】
効果的な仕組みを構築するには、まずは業務プロセスの標準化と最適化を行います。
これにより、無駄な作業を削減し、社員が本来の業務に集中できる環境を作り出します。
また、ITシステムを導入して情報の共有と管理を効率化し、コミュニケーションを円滑にすることも重要です。
次に、社員のスキルアップとキャリア開発を支援するための機会を整備します。
例えば、定期的な研修や勉強会を開催し、最新の技術や知識を習得する機会を提供します。
また、ジョブローテーション制度を導入することで、多様な業務を経験し、総合的な能力を高めることができます。
併せて評価制度を見直し、公正で透明性のある評価基準を設けることで、モチベーション向上につながります。
また、リーダーシップの育成も重要なポイントです。
リーダーシップでは知識と経験のバランスが大切になります。
中小企業では、リーダーの役割が企業全体の成長に直結することが多いため、リーダー候補となる社員に対して特別なトレーニングや育成プログラムを導入します。
【3.組織文化を醸成する。】
企業の成功には、強固な組織文化の醸成も欠かせません。企業規模に関わらず、社員が一丸となって目標に向かって働くための文化を築くことが重要です。
まず、企業のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を明確にし、全社員で共有しましょう。
これにより、全員が同じ方向を向いて働くことができ、一体感が生まれます。
社員同士、コミュニケーションの活性化もそのひとつです。
定期的な全社ミーティングやチームビルディングイベントを開催し、社員同士の交流を促進しましょう。
また、意見交換の場を設けることで、社員が自由に意見を述べることができる環境を整えます。
これにより、社員の意見やアイディアが反映された意思決定が期待できます。
次に、環境作り(社員の働きがいを高めるための取り組み)も重要です。
例えば、フレックスタイム制度やリモートワークの導入により、柔軟な働き方を検討をおススメします。
また、社員の成果を適切に評価し、報酬や昇進、プロジェクトへの参加条件に反映することで、「やりがい」を感じられる環境を作ります。
併せて、社会貢献活動を通じて企業の価値観を外部に発信することも、組織文化の醸成につながります。
地域社会との交流やボランティア活動を行うことで、社員の誇りや忠誠心が高まり、企業全体の一体感が強まるでしょう。
「人材版伊藤レポート」とは
経済産業省が公表している報告書に、『人材版伊藤レポート』があります。
人的資本経営を実現するためのフレームワークとして、「3P・5Fモデル」という理論モデルが紹介されています。
「当たり前のように実践されていると思っていたことが、実はそうではなった!」
「不都合な現実が次々に浮かび上がってきた・・。」
人的資本経営に関する調査と集計結果になります。
専門家たちが、自己反省と悶絶を始めたと言われる内容を確認していきます。
3Pモデル
3PのPとは、「Perspectives」(視点)のことであり、人材戦略を立てるうえでどのようなポイントを踏まえるべきかという意味を表しています。
【1.経営戦略と人材戦略の連動】
こ企業のビジョンや長期的な目標に基づいて人材戦略を設定することを意味します。
例えば、ある企業が技術革新を目指している場合、その目標に合わせて技術的なスキルを持つ人材を育成・採用し、適切な部署に配置します。
具体的な例としては、IT企業がAIやデータサイエンスに精通した人材を育成するプログラムを導入することが挙げられます。
【2.Asis-Tobeギャップの定量把握】
現在の状態(Asis)と、目指すべき理想の状態(Tobe)の間に存在するギャップを数値で把握し、そのギャップを埋めるための施策を具体的に計画します。
例えば、従業員の現在のスキルレベルと必要なスキルレベルを比較し、必要な研修や教育プログラムを導入します。
ある製造業の企業が、新しい生産技術を導入するために従業員の再教育を実施することが考えられます。
【3.企業文化への定着】
人的資本経営の取り組みを企業文化として浸透させることが重要です。
これにより、全社員が共通の価値観や目標に向かって協力し合う環境を作り出します。
例えば、Google社では「社員の成長を促進する文化」を重視し、全社員が自己啓発やスキルアップを継続的に行うことを奨励しています。
5Fモデル
5FモデルのFとは、いかなる業種の企業でも共通して取り組むべきとされている人材戦略の要素(Factor)を示しています。
【1.動的な人材ポートフォリオ】
企業内の人材を適材適所に柔軟に配置し、変化するビジネス環境に迅速に対応できる組織を構築します。
例えば、大手企業がプロジェクトごとにチームを組み替え、必要なスキルセットを持つ人材を集めて新しいプロジェクトに取り組むことなどが考えられます。
【2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン】
多様なバックグラウンドや経験を持つ人材を採用・活用することで、イノベーションや創造性を促進します。
例えば、ある企業が異なる国籍や文化を持つ従業員を積極的に採用し、チームの中で様々な視点からのアイデアを取り入れることなどが考えられます。
【3.リスキリング・学び直し】
従業員が新しいスキルや知識を習得できるよう、継続的な学習の機会を提供します。
例えば、ある企業がデジタルトランスフォーメーションに対応するため、従業員にオンライン講座やワークショップを提供してスキルアップを図ることなどが挙げられます。
【4.従業員エンゲージメント】
従業員が企業に対して高いモチベーションと情熱を持つようにする取り組みです。
企業は従業員の意見やアイデアを尊重し、働きがいのある環境を提供します。
例えば、ある企業が従業員満足度調査を定期的に実施し、その結果を元に改善策を講じることが考えられます。
【5.時間や場所にとらわれない働き方】
テレワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方を推進することで、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働ける環境を整えます。
これにより、ワークライフバランスが向上し、生産性も高まります。
例えば、リモートワークを導入している企業が、従業員のパフォーマンスを向上させるために柔軟な勤務時間を導入することが挙げられます。
人材版伊藤レポート(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
人的資本経営で成果の上がっている中小企業
人的資本開示とは、企業が自社の従業員に関する情報を社内外に公開することです。
従業員のスキルや経験、労働条件、エンゲージメントのレベル、ダイバーシティの状況などが含まれます。
「人的資本開示をすると人材の採用力や定着力が高まる」というのは本当なのか人的資本経営と人的資本開示を相互に連携させる3つのステップを中心に継続した取り組みを行っている中小事業をみると、下記の2社のように、目を見張る効果や成功事例が数多く見られます。
事例1:近畿地方の建設会社(従業員約60人)
近畿地方にある従業員約60人の建設会社A社は、戸建て住宅を主力事業としています。
同社では、設計士が営業を兼任することで成果を上げています。
特に注目すべきは、女性設計士のひとりが同社の理想とする人材像「打ち合わせの段階から施主様への心理的な寄り添いと、技術的なノウハウを惜しみなく提供し、理想の家づくりをサポートする」を体現している点です。
この女性設計士が示すように、A社は社員のスキルと知識を最大限に活かし続けるために、建築や設計に関わるだけでなく、キャリアコンサルタントやライフプランナーなど人生に関するアプローチが出来るように資格取得の支援も行っています。
また、最先端の技術やノウハウを身につけるための研修には、社員ひとりひとりに年間予算を割り当てています。
これにより、社員の定着率が高く維持されており、新卒採用では地域の人気企業にランクインするほどです。
事例2:東北地方の食品加工業(従業員約130人)
東北地方にある従業員約130人の食品加工業B社は、スーパーやコンビニエンスストア向け商品の製造や、大手飲食チェーンの食材のカットや仕込みを手掛けています。
数年前、複数の大手コンビニや飲食チェーンからの要望で、SDGs(持続可能な開発目標)を推進し始めました。
初めは、既存の業務内容や状況をSDGsの17目標に当てはめるだけでしたが、2030年の会社の理想像を若手社員と経営幹部で話し合ったことがきっかけで、取り組みが加速しました。
B社では、理想の会社像を実現するために「人材の育成・活躍・定着、そして採用が重要」との経営方針を確立し、SDGsからESG(環境・社会・企業統治)、そして人的資本への取り組みを徐々にレベルアップしてきました。
現在、売り上げと就業時間の5%を社員の育成・活躍・定着に充てることを打ち出し、社員が自主的に様々な勉強会を企画しています。
これにより、世代間ギャップが解消され、特にZ世代の定着率は以前の3倍以上に高まりました。
まとめ
中小企業と大企業における人的資本経営の取り組み方には違いがあり、大企業では有価証券報告書を発行する約4000社に人的資本の情報開示義務が課せられています。
そのため、人的資本経営は「大企業向け」と感じられることもありますし、リソースに余裕が無いと効果が出ないのではないかという質問を頂きます。
ここまで読んで頂いた読者の皆さまは、「当たり前で既に取り入れていることがたくさんある。」と感じて頂いた方が多いのではないでしょうか。
もしも、「もう少し成果となって表れて欲しいのに・・。」と感じるとしたら、「視点」を変えてみることも良いかもしれません。
重要性を理解し、企業の現状や将来像と照らし合わせながら、独自の戦略を築くことが求められます。
現代のビジネス環境においては企業の規模に関係なく、人的資本経営が必要不可欠といえます。
現在の人材を最大限に活かし企業全体の競争力を高めるために、人的資本経営の実践を検討してみてはいかがでしょうか。
企業の成長と継続的な発展に向けて、これまでとは少し視点を変えた、「人的資本経営」に取り組む時なのかも知れません。
元記事発行日:2024年11月27日、最終更新日:2024年11月28日